研究実績
麻酔科学講座研究内容・実績
■麻酔科学の研究について
臨床研究であれ基礎研究であれ、研究することで新しいことを発見したり創造したりすることは、大学麻酔科の存在理由の一つです。
質の高いケアを提供することや麻酔専門医を育成するだけでは、アカデミズムを維持することはできません。 また、大学の中で、他科と同等の立場を主張するためにも一定レベルの科学的な生産性を保つ必要があります。
しかしながら、講座に属するスタッフ(麻酔指導医以上)全員が、忙しい日常の臨床業務のほかに、主体的に研究を行うことは大変難しいといわざるを得ません。そこで、東京慈恵会医科大学麻酔科では、以下のことを研究面での目標にしています。
1.大学院や留学を経て、基礎研究のトレーニングを積んだ者に対し、時間や資金の面で、基礎研究に従事できる環境を整備し、各々がpeer review に耐えうる研究を目指す
2.臨床と基礎の橋渡しになるような、臨床に密着した基礎研究を目指す
3.科学研究費など、公的資金を獲得できるような研究を目指す
4.基礎研究に携わらない医局員は、何らかの形で臨床研究に参加する
5.臨床研究では研究立案(プロトコール作り)のプロセスを重要視し、研究の前に、医学統計学の専門家の目を通し、助言をもらうようにする
6.学会の発表よりも学会誌への発表を重視する。学会誌のなかでも英文のpeer review journal を重視する
■他講座に留学・派遣
若い麻酔科医が研究を始めるに当たっては、研究歴のある指導者が面倒を見るようにしますが、研究テーマによっては、適当な指導者が講座内にいない場合があるかもしれません。
その場合は、学内・学外の他講座に留学・派遣という形でフレキシブルに対応します。例えば、ここ数年間で、3名(神経生理学研究室、生理学第2講座、東京医大解剖学講座、それぞれ1名)が大学院生として派遣されています。
また、海外留学も積極的に推奨しています。上園が講座主任教授に就任してから、三尾講師が2006年7月から米国ウィスコンシン大学麻酔科(指導教官 Bosnjak教授)へ2年間留学し、大きな成果を挙げて最近帰国しました。また、2007年6月から須永宏助教が米国コーネル大学麻酔科(指導教官 Savaresse教授)、2008年7月から柴綾子助教が米国クリーブランドクリニック麻酔科(指導教官 Sessler 教授)のもとにそれぞれ留学しています。来年は、ハーバード大学とウェイクフォーレスト大学麻酔科に留学生を派遣する予定です。一方で、臨床での留学も積極的に推し進めており、近い将来、臨床留学を果たす医局員も出てくる予定です。
■研究テーマ 基礎研究
麻酔科学講座のなかでは、分野ごとに下記の研究テーマでいろいろな基礎・臨床研究が行われています。ここでは、いくつかの研究テーマを示します。
【Ⅰ臨床麻酔領域】
1.小児麻酔のアウトカム研究
小顎症の代表的疾患であるHemifacial Microsomia (HFM)は挿管困難症を伴うことが多い。HFMの一部は、神経堤細胞の異常が原因と考えられており、実際、HFMの患者で先天性心疾患を伴う場合、その先天性心疾患は神経堤細胞欠損が原因でおこる心疾患に限られている。これらの特徴を持つHFMの患者の遺伝子レベルにおける異常を解明する方法を検討中である。
2.非侵襲的心拍出量モニターに関する研究
動脈圧波形分析から心拍出量を推定できる、非侵襲的モニターが開発された。臨床での有用性が確認されれば、今後、肺動脈カテーテルの適応がますますきびしくなることが予想される。この新しいモニターをさまざまな臨床の現場で検証することがこの研究の目的である。
3.ステント治療における区域麻酔の役割に関する研究
腹部大動脈瘤の治療におけるステント治療は、開腹術に代わる治療法として確立されつつあるが、ステント治療法の際に行う麻酔に関して知見は少ない。われわれは区域麻酔を第一選択としているが、その周術期合併症について発生率や種類を検証している。
4.デクスメデトミジンの全身麻酔薬としての可能性に関する研究
これまでに術後鎮痛法に関するいろいろな臨床研究を行ってきたが、新しいα2アゴニストであるデクスメデトミジンが術後鎮痛薬として非常に有用であることがわかってきている。その延長として、デクスメデトミジンを全身麻酔薬の一部として使えるのではないかという仮説を検証している。
【Ⅱ集中治療領域】
1.エンドトキシン散乱測光法の開発とその意義に関する研究
血小板凝集測定装置を応用して、エンドトキシンの新しい測定法を開発中である。測定原理はリムルス活性を利用しているので、従来の測定法と同じであるが、より早期に微量なエンドトキシンの測定を可能とした。現在は、臨床検体を測定することでエンドトキシン測定の臨床的な有用性を検討中である。
2.ICU専属システムの評価
当院ICUでは平成18年4月より5名のICU専属医を配置しているが、これによる患者予後に対する有効性を評価するため、平成17年度および18年度に入室した気管切開症例を対象に後ろ向きに検討した。入室症例(17年度900症例、18年度1149症例)の平均在室日数はそれぞれ3.9日、3.5日であり、有意に後期で短期間であった(p=0.044)。また、気管切開施行症例はそれぞれ55例、34例で、全症例における気管切開症例の割合はそれぞれ6.1%、3.0%であり、明らかな減少が認められた(p=0.0006)。
3.急性期DIC診断基準の検証
DICを早期に診断するために急性期DIC診断基準が発表されたが、この診断基準の外部施設における妥当性の検討はまだ行われていない。また本邦ではDICに対して蛋白分解酵素阻害剤やAT-III製剤の投与が行われるが、国際的にはこのような治療法はほとんど行われていない。そこで当施設における急性期DIC診断基準に照らしたDICの発生頻度、予後との関係、治療内容とDICマーカーの推移の関係を前向きに調査した。現在、データ解析中である。
4.ICUにおける鎮静薬デクスメデトミジンの有用性に関する研究
デクスメデトミジンが本邦で臨床使用開始され、3年が経過する。しかし、現実には小児への使用、長期間の投与に関してはその安全性が確認されていない。そこで、当施設ではデクスメデトミジンの小児および長期投与の安全性を確認する多施設共同研究に参加し、臨床効果の検討を行う予定である。
【Ⅲ疼痛管理・ペインクリニック領域】
1.疼痛管理・ペインクリニック領域
乳癌の術後には様々な原因から痛みが起こる可能性がある。中でも乳房切除後疼痛症候群の発生率は20-49%と高率であるが、治療が普及しておらず対策は不十分である。乳房切除後疼痛症候群は難治性といわれる神経障害性疼痛であり、治療には抗うつ薬、抗痙攣薬、抗不整脈薬、漢方薬、オピオイドなどが用いられるが日本での治療データはほとんどない。そこで、これまでに薬物治療を行った再発や転移のない乳房切除後疼痛症候群患者を対象に治療内容、投与薬剤の種類、投与量、投与期間、効果、副作用、忍容性などについての調査を行った。治療は国際疼痛学会で推奨されている神経障害性疼痛治療の治療指針に従って行い、三環系抗うつ薬を第一選択薬として使用し良好な治療結果を得た。わが国において三環系抗うつ薬は口渇や便秘などの副作用の出現率も高いが、忍容性も高く第1選択薬として十分使用可能であることがわかった。
2.塩酸トラマドールの慢性疼痛への効果
塩酸トラマドールは、μオピオイド受容体作動薬であるとともに、ノルアドレナリン・セロトニン再吸収阻害作用も持つユニークな鎮痛薬である。嗜癖性が極めて少なく、呼吸抑制も起こしにくいため、ヨーロッパを中心に使用されている。日本では1977年に導入されたが、現在までほとんど使用されていない。塩酸トラマドールの慢性疼痛患者に対する有効性を調べるため臨床研究を行い、神経障害性疼痛を含む難治性疼痛への有効性を確認した。
3.慢性疼痛に対するオピオイド使用ガイドラインの作成
欧米先進国では慢性疼痛に対してオピオイドが頻用されているが、本邦ではほとんど使用されていない。一方、オピオイドの不適切な使用は嗜癖性をもたらすため、欧米ではオピオイド使用のためのガイドラインを国レベルで作成している場合が多い。オピオイド使用ガイドラインを作成するための研究会を立ち上げ、その中心施設として研究・調査活動を開始している。
【Ⅳ基礎研究領域】
1.実験的肺高血圧の遺伝子治療の開発
肺高血圧(pulmonary hypertension, PH) は、原発性にしても、二次性にしても、治療困難な病態である。PHの病態の本質は、肺血管を構築する細胞の筋性化、肥大、増殖、さらには3次元構築の改変(リモデリング)にあるという考えに基づき、肺血管拡張をめざす治療法でなく、細胞の炎症や増殖を抑えることを目標にした治療開発を目標にしている。具体的には、臓器リモデリングに関わる遺伝子発現を制御する転写因子に注目し、転写因子レベルでの遺伝子発現制御を行い、それを治療に活かすいわゆるデコイ型核酸医薬の治療法の可能性を検討している。
2.疼痛刺激による脊髄レベルでの神経伝達物質放出に対する鎮静、鎮痛剤および吸入麻酔薬の作用について
疼痛侵害刺激が加えられると脊髄後角において一次ニューロンより放出されるサブスタンスP(SP)はNK1レセプターに結合後、Internalization (INT)を引き起こす。それゆえ、そのINTの定量化は内因性SP放出の測定法となる。この方法を用いて、疼痛刺激後の脊髄レベルでのSP放出に対する鎮痛、鎮静剤(プロポフォール、ペントバルビタール、オピオイド、デキサメデトミジン)、吸入麻酔薬(イソフルレン、セボフルレン)、笑気の作用について調べた。オピオイド、デキサメデトミジン、笑気は全身投与、髄腔内投与でINTを抑制がみられた。これらの薬剤は脊髄レベルにおいて一次ニューロンからのSPの放出を抑制するため、術後の痛覚過敏やアロデニアを抑制する可能性がある。
■研究実績
※PDF書類をご覧いただくには、Adobe Readerが必要です。
プラグインは以下のURLからダウンロードできます。
http://www.adobe.co.jp/products/acrobat/readstep2.html

















